2015年3月26日木曜日

The Archive of Youth Culture(Archiv der Jugendkulturen e.V.)

2013年度海外調査(ドイツ) [NO.2]  


訪問日時:2013年11月13日
場所:The Archive of Youth Culture(Archiv der Jugendkulturen e.V.)
 



【 概要 】
15年前に、代表のGabi Rohmannさん(40歳くらいの女性)が、若者の文化を包括的に調査することが必要と考えて設立した公益団体。まず始めたのは、青少年文化のアーカイブ(資料室)。現在、8000冊の書籍、600の学術論文、3万冊の雑誌を収録している。その他、DVD,CD、パンフレットも収録している(残念ながら規模を縮小しなければならないため、資料を段ボール箱に詰めなければならなくなっている)。
自費で維持しており、スタッフはすべてボランティア。プロジェクトがとれればそこからお金(人件費)を得る。プロジェクトには、1か月、3か月、3年とさまざまな期間がある。



事務所のビルの外壁 グラフィティが描かれている


【 プロジェクト 】
ユースカルチャーにおける差別についての資料を収集していたが、その過程でいろいろな若者に出会って、直接実践してもらった方が魅力的でよいと考えるようになった。具体的には2001年に、ネオ・ナチ、極右などが台頭したため、シュレーダー首相が何かしなければならないと呼びかけたのに応え、学校やユースセンターにおけるワークショップを始めた。社会的に不利な立場にある若者が対象。グラフィティ、パンク、テクノ、メタル、ヒップホップ、ラップ、まんがなど、若者の関心がある文化を活用して、それらを通じて差別を扱う。重要なのは、パンクをやる場合には、パンクの専門家が指導者を務めること。指導者を若者が認めるためには、その畑の本物でなければならない。年齢的に若者に近いことも重要である。ドイツでは様々な差別があり、極右、反ユダヤ主義、性差別、ホモフォビア(同性愛者差別)などが重点テーマである。ユースカルチャーにおいて、差別は良い面でも悪い面でもテーマになる。差別的メディアがあり差別を助長する一方で、差別に反対し解決しようというメディアもある。ワークショップは柔軟で、子どもから大人まで受けることができ、1時間から1週間まで実施できる。

【 プロジェクト① カルチャー・オン・ザ・ロード 】
・力を入れているワークショップは、カルチャー・オン・ザ・ロード(旅回りの文化)である。各国のドイツ語圏を巡回して開催する。専門家の指導員が60名いる。専門家は、テクノ、ヒップホップ、ラップなどができるだけでなく、インターカルチャーで多様な背景を持つ人たちである。参加者は、ワークショップでやった成果を、ビデオ、雑誌、ダンスのプレゼンなどで発表する機会をもつ。差別という政治的なものについて学ぶだけでなく、映像やスケートボードなど職業につながるスキルを身につけることもできる。ドイツではそれをインフォーマルな学びと言う。いろんな人との接触をもち、協力し、いろんな(職業)能力を身につけるという意味である。
例) 反ユダヤ主義、反差別主義のワークショップ: ベルリンの学校に提案して実現した、3年限りのプロジェクト。2日間の(授業としての)ワークショップと1週間のプロジェクト・ウイークで構成する。日本の総合学習のようなもの。7つのワークショップ(演劇、ラップ、コミック、写真、ハウスDJ,ビデオ、グラフィティ)がある。参加するワークショップは参加者に自由に選んでほしいと考えている。各ワークショップに2人一組の指導者(イスラエル系移民と、移民を背景とする専門家)がいる。資金は連邦家庭省、ドイツ政治教育のためのセンター、ベルリン州移民対策部から。カリキュラムではないので、継続するためには新たな資金を得る必要がある。
マックスプラン・ギムナジウム(ギムナジウムだが敷居が低く、移民など不利な人々が住んでいる地区の学校。進学コースだが上級学校では決してない。卒業すればアビチュア(大学入学資格証明)を受けられるのだが中退者が多い)では午前8時から午後2時半まで毎日行った。移民の背景をもつ、16~17歳の80名の生徒(不利な条件をもつ若者)が参加。その様子について、生徒が短いビデオを作成した。タイトルは「偏見のない果実」で差別を超えることをテーマにしている。



【 プロジェクト② 文学と写真のためのワークショップ 】
ベルリンの学校の12人の青少年が参加。参加した生徒の住むノイケルン地区は全国のなかでも殺人などの犯罪が多いというイメージがあり、子どもたちはその偏見に傷ついている。1週間にわたって、文学者と写真家が専門家として、アイデンティティについてワークショップをした。参加する生徒は多言語で、ユーゴ、アラブ、ロシアからの移民である。私や家族、自分の余暇、学校について文章を書き、家族の写真を撮る。1週間のプロジェクト・ウイークのあと学校で成果を発表する。生徒は、当初は、授業を受けなくていいと理由で参加したが、終わってみると、クリエイティブで楽しかったとのこと。19世紀の古いカメラを使って写真を撮ることもした(写真の歴史を学ぶこともした)。現在は、もっとたくさんの人に見てもらおうと、学外の10か所の公的機関を(赤十字、都市計画課の中、州の議場などお金を出してくれるところ)を会場にしてギャラリーで展示している。ノイケルンだって普通だということを、展覧会をすることでわかってもらう。借金をして行っているプロジェクトなので、資金を回収するため、お金をもらえるところに展示している。



ワークショップの作品


【 プロジェクトについてのQ&A 】
Q 参加者をどうやって集めるのか
A 学校プロジェクトは授業のひとつなので参加が義務。ユースセンターなどでちらしを配って集めるプロジェクトもある。学校については、ドイツの学校制度はまちまちなので、いろいろな時間帯で行われている。ワークショップは柔軟性に富んでいて時間、対象、手法、目的はいろいろある。


Q 参加した若者への影響は?
A ワークショップは短期的なものなので影響をはかることはできない。うれしい例として、2007年にスケートボードワークショップに参加した若者から手紙をもらった。かれは、それがきっかけでスケートボードに興味をもち、近所にスケートボード場を作る運動をして獲得した。また、社会教育を学びたいので、進学してここで実習をしたいという手紙もあった。チームリーダーからは、自分たちが興味をもっていることをしてくれた、創造的なことをやってくれて楽しかったという感想がある。


Q あなたがなぜ、これを始めたのか。背景は?
A 社会学とジャーナリズムを学んだ。ほかのスタッフは、商業関係、文化などいろいろである。


Q 参加する青少年はいろいろな問題をもっているが、それへの取り組みはしているのか。
A 社会教育福祉士がやるようなことはしないが、何か耳にした時は助言したり先生と相談したりする。    


Q 学校でのワークショップの場合、学校との交渉は?
A 学校から問い合わせがある場合の方が多い。こちらから提案することもある。


Q 不利な若者に焦点を当てるのはなぜか?
A 不利な人たちが認められることが大事。注意を向けられていない、誤解されているという感覚をもっているから。チャンスも少ない。


Q 同じ環境の人をリーダーにすると盛り上がってしまい、その集団から外に出られないということはないか? 
A そうならないために、チームリーダーの研修をしている。研修は実際的である。。





【 資料室 】

資料室
  
数名のスタッフが働き、外部からも人が出入りしていた。若者は、ユースカルチャーに関心が高く、大学生や院生などが論文を書くためにここを利用している。それほど広い部屋ではないが、自然木で作った書棚に種類別の雑誌や書籍がきちんと整理されていた。過去にここを利用して書かれた学生の卒論も収録されていた。