訪問先名称:社団法人「野の花 青少年 世界」仁愛ひまわりグループホーム 野の花青少年センター、花屋Dream Flower(予備的社会的企業)
訪問日時:2011.2.27
【団体の概要】
社団法人「野の花 青少年 世界」事務局長のキム・クムフン氏によると、この団体は、10代の若者のために、グループホームにおけるケア、代案学校(フリースクール)、作業場としての花屋によって、「ケア+教育+生産」を行っている団体である。
この団体のはじまりは、シンナーを使っている若者15人が教会で寝ていたことからであるという。牧師が事情を聴くと、彼らは家に帰れる状況ではなく、まず一緒に暮らしはじめることになった。ついで、彼らの中には学校に通っていない者も多かったので、代案学校をつくった。そして、その後、成人して自立しなければならなくなってくるため、生産の場として花屋をつくったという。つまり、初めから「ケア+教育+生産」を目的として団体を創設したのではなく、目の前にいる若者の必要に応じて、活動が展開されてきたのである。このように手広く活動を行っている団体は他にはないともいう。
【グループホーム】
韓国訪問初日、金浦空港から地下鉄を9号線、4号線と乗り継いで1時間40分ほど南へいった安山(あんさん)市の古桟駅につく。通訳のカン氏によれば、安山市は人口約75万人、いわゆる3Kの厳しい労働が集積する工業団地で共働き家庭が多く、また、地方から若者が多く集まる場所であるという(家を出たら、安山に行けば何とか生きられるという感覚があるという)。駅から車で10分ほどのところにある新しいとは言えないマンション(アパート)の一室が仁愛ひまわり(インエ・ヘバラギ)グループホームである。日本の児童養護施設のグループホームにあたる場所であり、親の離別・死別、貧困などにより、親が育てることが難しい子どもたちが住んでいる福祉施設である。
このグループホームは、社団法人「野の花 青少年 世界」が持っている12か所のグループホームの一つである。10か所が安山市にあり、残りの2か所がソウル市にある。この団体が持っている10か所を含めて、安山市には30のグループホームがある。京畿道には90か所、全国には約400か所があるという。1か所に5~6人の子どもが住んでおり、現在、安山市の団体のグループホーム10か所で計50名がいる。日本と同様、施設からグループホームへと移行が進んでいるというが、市内には、日本で言う大舎制の施設が1か所あり、そこに約70名の子どもが住んでいるという。
グループホームの施設長オウ・スンソクさんとソーシャルワーカーのキム・ジョンアさんは夫婦である。4LDKの部屋に、夫婦と夫婦の実子2人(4歳と2歳)、そして、6人の男の子が住んでいる。4部屋のうち、1つは夫婦家族の部屋、1つは事務室、残りの2部屋に男子3人ずつが住んでいる。家の購入費・運営費は個人が支出するが、2人の人件費と補助金が行政から出されているという。この施設は夫婦で運営しているが、必ずしも一般的ではない。
男の子たちは、12~19歳、多くの場合、学校の教員や牧師、周囲の人がグループホームに連絡してくることによって、ここにつながるのだという。
彼らは、ここから学校に通ったり、代案学校(オルタナティブ・スクール)に通い検定の準備をしたりする。放課後は、学校での放課後アカデミーや地域児童センターで勉強をする。放課後アカデミーは、学校で行う学習サークルであり、地域児童センターは、貧困家庭の学習支援、保護・ケアを行う施設である。後者は、当初民間で始まったものが公的なものとなり、全国に3700か所、安山市に60か所あるという。センターでは、狭い意味での学習だけではなく、「人文学」も扱っている。具体的には、体験プログラムや、図書館で新聞や本を読んで討論するなどの活動が含まれるという。
グループホーム退所後の進路は、主として、就職、就職はできないが自立する、大学進学という3つの道があるという。今回、グループホームを出る14人のうち、就職が3人、大学進学が4人、3人は元の家族に戻り、2人は自立の準備ができずに施設にとどまり、3人は就職先が見つからないまま巣立っていくという(人数が合わないのは重複があるからか)。施設を出る時に、300万~500万ウォン(約24~40万円)の自立支援定着金が出され、アパートを借りるときなどに用いられる。その他に、奨学金や国民基礎生活保障法による補助があり、金銭面で進学できないことはほとんどないという。
スタッフの資格は、社会福祉士または保育士で、施設長には社会福祉士が必要とされる。キム・ジョンアさんは、教員、相談士、青少年指導士の資格を有している。
このあと、別のアパートの一室にある女子のグループホームも見学した。中3~高3の女子5人を女性2人のスタッフが担当していた。
【青少年センター】
この社団法人がもつ青少年センターは、無認可の代案学校(フリースクール)のほか、図書室、木工室、食堂、裁縫室、英語教室、バンド室、食堂などが入った4階建(?)の建物である。
貧困家庭の子ども40名が利用している。外国人児童向けのハングル講座も開かれている。
建物は、3億ウォン(約2400万円)の寄付を得て建てられており、音楽学校の講師費用や裁縫室のミシン、食堂の米なども寄付で賄われている。各部屋の名称には、寄付をした企業名も用いられている。
スタッフは、常勤が昼5名、夜3名でその他に非常勤のスタッフがいる。
【花屋(予備的社会的企業)】
青少年センターから車で移動した幹線道路沿いに花屋が4~5軒並んでいる。そのなかの一つが予備的社会的企業の花屋である。
この花屋では、3人の若者がローテーションで、半年~1年の間、掃除から植え方までの訓練を受けている。この花屋の代表は、専門家として社団法人から雇用され、若者に花屋を経営するノウハウを伝えている。月2500万ウォン(約200万円)の売上の3~4割が純利益であり、それを社団法人に寄付している。インターネットでも注文を受け、他の花屋とのネットワークを用いて配達をする。
社団法人を創設した牧師が、学校に通っていない若者と生活をともにするために当初は農場をつくろうとしたが、代案学校をつくったため、収益事業として花屋を創設し、その利益を団体に寄付するかたちをとった。
【アウトリーチ】
団体では、最近、アウトリーチの活動も行っている。派手にペイントした38人乗りのバスを、繁華街の公園などの路上に出して、夜に家を出ている若者のための移動相談をするのである。必要に応じて、休憩場所や食べ物、下着を提供したり、相談を受けて他機関と連携して対応したりしている。これらを通して、若者の生活の調査研究も行っている。
バスは、現代自動車からの援助による。運営費は、カン・ヒョック氏が属する社会福祉法人「walking with us」から寄付を得ている。「walking with us」は、大学教員である篤志家から毎年15億ウォン(約1億2000万円)の寄付を受けている。
【考察】
社団法人「野の花 青少年 世界」のヒアリング、そして今回の韓国調査を通じて感じることは、第一に、社会的活動を民間の寄付が支えているという点である。団体の青少年センター、グループホームを支える各企業、walking with usへの篤志家の多額の寄付など。2日目以降のヒアリングでも、IMF危機時に国民が一体となって集めた金や寄付金が元手となって社会的企業を支えている財団(ともに働く財団)が創設されていた。もちろん日本でも、児童養護施設などの福祉施設やNPOの中でも民間企業や篤志家からの多大の寄付を得ている団体は少なくないであろうが、今回の調査の印象では韓国の方が民間の貢献活動が一般化しているように思われた。この点は、調査対象の特性の偏りも否めないため、量的な比較の上でも違いが見られるかの確認が必要となる。しかし、イギリスやニュージーランド等、アングロサクソン系でキリスト教が中心の国々が、単なる公的支出を切り捨てるだけの「ネオリベ」ではなく、「大きな社会」を伴った「新自由主義」(宮台2009)に近いとすると、キリスト教徒の多い韓国が、日本と同様に教育や福祉への公的支出が小さい(相対的に「小さい国家」)一方で、日本と比して相対的に「大きな社会」である仮説はありうることであろう。
第二に、進路としての進学、そのための学力形成への社会的合意がほとんど疑われていないように見えることだ。日本では、「受験戦争」への抵抗感や不登校の増大への対応から、「学校的価値」が切り下げられ、「ゆとり教育」への制度的変化や、それをとおした学力低下、その階層間格差の拡大が指摘されている流れがある。韓国での教育政策への変化や人々の反応はわからないが、一方で代案学校(オルタナティブスクール)が生み出されてはいるものの、学力形成への合意は疑われずに存在しており、それに向けて「大きな社会」が背後で支援しているように見える。だが、それは必ずしも狭い意味での学力に限られたものではないのかもしれない。韓国において「人文学」という言葉が表す意味内容が気にかかる。
そして第三に、それらを背景として、社会的企業が、いくつかの傾向性の異なる機能を果たしているということである。今回の予備的社会的企業である花屋は、福祉団体が、典型的な社会への移行とは異なる状態にある若者の移行を支援する目的で設立したものである。しかし、これは二日目以降の調査を考えると、社会的企業の全般的な性質ではないと思われる。一方では、大卒など高学歴の若者が起業の一つの形態として、あるいは社会的な意思を実現させようとする形で設立されている。このような形態によって、学歴インフレで大手企業に就職できない若者の社会への包摂、あるいはそれを通した柔軟で創造的な発想を社会経済へ生かす機能を有している。他方で、そのような団体の一部が、障がいを有している等、典型的な移行を果たせない困難を抱えた若者の就労体験や就労の場を提供している。花屋は後者の形態の一つであろう。
実際に、前者のような団体がどれだけ企業体として自立できるのか、後者のような団体が(援助を受けたままであったとしても)就労支援として有効な機能を果たしうるのかはわからない。しかし、いずれにしても現在のところ、社会的企業は、国家の成長やそのための学力形成の意義を疑うことなく、人々を動機づける機能、それへの社会的支出を正当化する機能は果していると言えるかもしれない。
現在の韓国の雰囲気として、IMF危機を乗り越えて経済が上り調子にあるように思われた。しかし、景気が悪化したときに、あるいは政権が交代したときに、現実の機能が問題にされて、社会的企業やその他の社会的な支出が削減される可能性もある。だが、他方で、このような社会的支出が、経済が危機的な状況にあるときに生み出されたことも忘れてはならない。日本では、現在のように経済が厳しい状態にあるときに、税金やその他の社会的支出を出すよりは、むしろ「無駄遣いの削減」が叫ばれて、民間の寄付も公的支出も削られていく流れがある。
仮に、韓国と日本の「社会」の大きさが異なっているとすれば、それがどのような文化や制度の経路の上に生じているのか、実際の政策や制度のどのような違いに表われているのかを探究することが有益であろう。