2010年10月9日土曜日

WooDoo Workshop

2007年度海外調査(フィンランド) [NO.5]  



訪問日時:2007.11.22
場所:WooDoo Workshop
訪問者:Jyrki Tolvanen(所長)/インディビィデュアルコーディネーター/Peter(全国ワークショップ協会統括責任) 



*【組織の沿革】
 ヘルシンキ市が運営しており、教育行政の所管である。
AMTの下のレベルにあたり、中卒後すぐの職業学校と同じレベルにある。
ヘルシンキ市では80年代から青少年育成の部署で始まった。当初は、塾のようなもので、勉強をすることを目的としていた。
しかし、90年代から不況の中で、本格的に訓練をするものになった。
1995年からウードゥーと改称(WoodとDoを合わせた名前)。

最初はEU、教育省、ヘルシンキ市の予算によっており、5年間のプロジェクトとしてはじめた。2000年から100%ヘルシンキ市の予算になり、独立した施設となった。

当初はすぐに仕事に就かせることを目的としていたが、ニーズが変わり、すぐに仕事に就かせるよりも、高度な職業訓練校と提携して資格を身に付けさせるようになった。
ここでは実習を行うのみで、資格を取ることはできない。学校に通いながらここに週3日程度通う。ここでは、中学校を卒業できない子どもに、何かを学ぶことによって身に着けさせようとしている。たとえば、学校恐怖症的な子が、集団で学ぶことになれるようにし、職業学校に入れるように交渉することもする。
 


*【ワークショップの数・分野】
○ヘルシンキ市にワークショップは5つあり、4つが市の運営、1つが別の組織による運営である。 cf.エスポー市には9か所、バンター市には8か所ある。
ヘルシンキ市には17~25歳の失業者が1500人いる。利用者は、職安から案内されてここに来ることになる。(学校からの場合でも職安を通す)

○分野は、木工(WooDoo)のほか、金属加工、メディア、カフェ、シアター(大道具・小道具、役者、衣装)がある。
就職に有利なのは、木工、金属。
(亀谷補足:人手不足でロシアから労働力を呼んでいるほど)
分野の選定は、就職しやすいところ、若者が関心を持ちやすいところを考えている。この分野に対応する職業学校もある。5ヶ月間が終わった後も、6ヶ月間はコンタクトを取ることになっている。悩みがないか等連絡を取る。
 


*【ターゲット】
中学校を卒業できなかった子ども
職業学校に入ったけどドロップアウトした子ども(職業学校に入る子の50%がドロップアウトする)
一般に理論を学ぶのが嫌になってしまう子が職業学校をやめてしまう。そのため、辞めてしまう前に、ここで「手」を使う作業を行い、学校の単位と振り替える。学校とも連絡をとりあい、心理的なサポートも含めて支援を行っている。
たとえば、ワークショップで机を製作する。それをここの指導員と学校の教師が評価をして単位を出すかどうかを決める。

○年齢は、17~20歳が30% 20~25歳が70%
将来的には15~16歳も受け入れようと考えている。受験に失敗した子が何もしないで2~3年経ってからくるのでは時期が遅いと考えている。

○障害とかは関係あるか?
身体障害はないが、精神的な問題がある子が全体の半分くらいいる。病気や麻薬の問題がある。残り半分は精神的な問題はないが、生活が不安定である。
その違いによって指導を変えることはない。共通に伝えることは「社会の一員になりなさい」ということである。
学校からは「順応できない」として送られてくるが、ここでいろいろな問題が見えてくる。たとえば、文字が読めないというようなことがここでわかってくる。集団の中では見えていなかった問題であろう。
しかし、40%の子どもはここもドロップアウトしてしまう。その多くは、麻薬が問題。その場合は、いくら働きかけてもダメになってしまう。最後まで続けた子は、学校に入ったり、仕事に就く場合がほとんどである。

○勉強についていけないことよりも、家庭的問題や麻薬の方が大きいか?
ほとんどの子どもが両方を抱えている。

○この施設で家を探す支援をするのは家出をした子どもがいるからか?
家出をしている子どももいる。そうした子どもたちは、友だちのネットワークがすごいあるので、友だちの家に行ったりしている。
子どもの福祉が重視されているので、14才以下の子どもはグループホームに入園させるが、15歳以上は、仕事を持っていれば一人で住んでいる。市と提携して住居を探すが、市が所有している住居も少ないので、福祉団体が持っている家を探す場合が多い。家賃は国が補助する。

○支援からはずれた子は多いのか?
義務教育におけるドロップアウト率は理論上ない。(義務ゆえ)
職業高校の3年生でついていけない子どもが目立つ。 



*【スタッフ】
所長(Tolvanen氏)は、もともと木造船をつくる職人だった。その後ここに来てから教員の免許を取った。スタッフは全員市の職員である。
4人の教員のうち、2人は木工関係、1人はデザイン系の修士卒、1人はパートタイムで元小学校教員である。 



*【individual trainer】
 ヘルシンキ市の青少年育成で20年間働いてきた。市内に70か所の施設がある。
主に、小中学校に通えない子に趣味を与える仕事をしてきた。
作業というよりも生活面の指導であり、社会へ適応する能力を育成する。
離婚やアルコール、麻薬、家がないなど、家庭が不安定な子も多い。
希望がなくなってしまった子が社会へ順応し、自分と他者を信頼して人間関係をつくることができるようにすることが目的である。 



*【プロセス】
 学習期間は5か月間。最初は、機械の使い方を覚えていろいろな作品を作る。その後、外からの注文に応えて作品を作る。最後の3週間は卒業製作を行う。

○ここでは何を身に付けさせる?
重視しているのは、この分野に興味を持つかどうかを試してみること。技術を身につけることは5ヶ月間では難しい。ここを出た子どもも、半分は別の分野を選択する。
5ヶ月間でいろいろなタイプの学校に連れて行く。「こんな選択肢があるよ」と。仕事の現場にも行く。たとえば、夏休みに市職員のアルバイトをやらせたりする。企業との提携にも努めており、昼に仕事をしながら、夜間学校に通わせてもらえるようにお願いをしたりする。

○5か月間という期間は人によって違う?
4人の教員が9人ずつ担当し、グループごとに始まる時期が違っている。個人に応じて、短くすることもできるし、最長1年まで延長することができる(21ユーロの手当が1年まで)。
当初は、定員に空きがあれば随時受け入れていたが、何をやるのも一人になってしまうので、グループをつくって、9人のチームワークでやるようにしたら、その方が長く続くということがわかった。1~1ヶ月半間隔で受け入れている。 



*【支援方法】
 「仕事とは?」、「勉強とは?」と考えさせる。強制ではなく、地道に行っていく。まず、住む所を探すことからはじめる。
信頼関係を作ることが大事だと考えており、そこに時間を費やすことにしている。他の子ともと触れ合わせてグループに入っている意識を持たせ安心させる。明日も全員で一泊で、作業を離れて、ゲームをしたりして遊ぶことになっている。
35~36人が在籍しており、1週間に1回ミーティングがある。ただし、欠席が多い。
来なくなる主な理由はテレビゲームである。朝までやっていて疲れて来なくなる。根気強く家までいって、「私たちのためでなく、あなたのために来てもらうのだ」ということを伝える。
規則についても話し合う。それが本当に必要なものかどうかなど。 



*【成果主義、予算、福祉とモチベーション等】
○施設として成果主義はあるか?
レポートは出すが、実績によって何か変わるようなことはない。ここで物をつくって売ることをするが、年1500ユーロ程度。

○予算は、350000ユーロ(人件費、建物など)
1人が5か月間いることに市が費やす費用は、15000ユーロ(住居費は個人が他から受ける)。40%が途中でやめてしまうので、1人平均1500ユーロという高い額になってしまう(卒業生の人数で計算するため)。 cf.職業学校は、1年間、1人9000ユーロ
(亀谷補足 350~400ユーロは、働いていなくても個人が受給することができる。一人暮らしの場合は、親の収入は関係ない。ここに来るとそれに加えて、21ユーロ+8ユーロ受給することができる。)

○福祉がモチベーションを奪うという認識はあるか?
フィンランドの福祉はとくに高いわけではない。ヨーロッパの標準レベルである。ただし、不況後に多くの人が失業手当をもらうことを学んでしまった。「楽だからこのままでいよう」と考えてしまう。親がそう考えてしまい、一回失業手当をもらうと抜け出すのが難しいということがある。

1日21ユーロを、給料、お小遣いとして国が払う。ここに来なくてもそれは支払われる。そのことをミーティングでも伝えている。欠席が多いことへの対処法は、たとえば、「ちゃんと来たら1日お休みを増やす」とごほうび見せることなど。

路上にいる若者に払うお金は、1日70セントである。ここのような施設に来ると、1日1ユーロかかり、わずか30%増えるだけである。それならば働いて税金を払ってくれるようになるため、施設に入れる方がよいと考えられる。 



*【修了後の進路と支援】
○市内4つのワークショップの卒業生数
2003年 108人  2004年 105人  2005年 112人  2006年 111人

○修了時点の進路
2004 2005 2006
47  52  37% 失業者
17  16  28  就職
28  24  23 学校
卒業後、2週間に1回くらい電話をして、何をしているか聞く。
○修了6ヶ月後の時点
2004 2005 2006
19  27  22  返答なし。つかまらない。
30  24  26  学校
23  16  19  失業
14  18  16  就職(修了時点よりも下がっている)
12  12  13  訓練
資格を持っていないので、工事現場とか一時的な仕事が多いため。

ぶらぶらしている子どもよりも、ここに通うことで26%就職率が高まる。これはヨーロッパの中でも高い割合である。
就職のコネはここにはないが、それぞれの分野の知り合いに紹介するなどはしている。願書を書く手伝いや、入ったときに何をやりたいかを聞いたりもしている。5か月間在籍した子は必ず全員仕事に応募している。何もしないということはない。 



*【作業場】
広い中、15人ほどが作業。女子が多い。
指導者は、2人?に所長、インディヴィデュアルトレーナー。
○23歳の女子
ここには1人で来た(もともと友達同士ではない)。家からはバスで20分かかる距離。
木工に興味があってきたわけではない。小学校で工作したくらい。学校とは全然違う。
毎日6時間ここにいる。そんなに厳しくはないがちゃんと来るように言われている。たまに遅刻する。不満はない。ここに来るのは楽しい。
デザインの学校に行ってやめて、美容師の学校に行ってやめて、いくつか仕事してここに来た。
ここの情報は職安から聞いた。自分でここに決めて来た。2人とも強制されるということはなかった。自分たちで探してきた。自分たちはそうだけど、半分くらいの子は強制で来ていると思う。