2010年10月9日土曜日

Finnish Youth research network

2007年度海外調査(フィンランド) [NO.10]   


訪問先名称:Finnish Youth research network
訪問日時:2007年11月20日


*【概要】
青年研究は青年政策と密接に関わっている。すべての研究は何らかの形で実際に役立つものでなければならないという考え方をもっている。どうやって市民になるか、など。皆さんの研究内容と我々の研究内容とは全く同じようなものが多い。
Society Networkとの関係については、societyは研究者の研究会でnetworkは実際に研究が行われているところ、societynetworkをマネージしている関係。netoworkの研究費はすべて国会の審議を経て政府から来ているので、政府や国会が変われば財政も変わる。研究所長とコーディネータはnetoworkの常勤職だが、その研究を担う研究者は24年のプロジェクトごとに雇用される形でnetworkの職員ではない。


*【青年バロメトリ調査に関して】
Samiさんから青年バロメトリという研究についてのレクチャー。青年の価値観と態度についての研究で毎年2000人の15歳から29歳の若者を対象にして行われる。1994年に開始し13年続けているので、様々な傾向がわかってきている。このネットワークと政府のもとにあるヌオラが協働して研究している。仕事、教育、政治への態度や基本的価値観などが調査項目になっている。それに毎年話題になっている項目も付け加える。政治家はこの調査に非常に興味をもっている。今年の特別テーマは、ベーシックインカムについての是非。これは緑の党が推進しようとしている政策。投票年齢、義務教育年齢についても尋ねている。

以下、調査結果。教育への態度について。教育は自分の就職の機会を広げるか?という質問について、94年から2000年までは、教育が就職の機会を広げるとの考えを支持する比率が上がり続けているが、その後下がり始めている。仕事を持ち続けるためには生涯教育が必要だという考えについても、同じように2000年をピークとしてそこまでは上がり続け、その後は下がり続けている。その他の設問についても同じ傾向がみえているので、政治家は若者たちの間で教育への信頼感が落ちていることを大変気にかけている。ただしこれは悪い傾向ではないのかもしれない。2000年に若年失業が下がってきたからこそ、若者が教育はさして必要でないと考えるようになったのかもしれない。
仕事については、職業の変化が大きく、働く者が早くバーンアウトするという考え方について、2002年からあがってきている。他の設問でも同じ傾向がみられ、多くの若者が仕事の内容について重く苦しいものだと感じるようになってきていることがわかる。失業率についての態度としては、失業しても収入が確保されるなら悪くないという考え方について、2000年から、その通りだと、つまり失業はそれほど悪くないと答える人が増えている。
社会と政治については、フィンランドでは民主主義はうまく機能しており、それは国民に大きな影響力があり社会参加が促進されている、という考え方について、その通りだと思う人の比率が多くなってきている。この結果には驚いている人が多い。というのは若者の政治意識は希薄化していると思っている人が多いので。その解釈としては2通りありえ、肯定的に解釈すれば、若者の政治への関心が高まっているとも考えられるが、ネガティブに考えれば、興味はないがうまく機能していると考えているとの解釈もできる。フィンランドでは暴力的なデモンストレーションをする若者も2000人ぐらいいるが、全体としては若者は政治を信頼しているといえるのではないか。一番目立つデモンストレーションは、短時間雇用の若者たち、彼らは若者の不利な立場についてデモンストレーションしている。それ以外には外国のまねをしてグローバリゼーションに関連しWTOへのデモなどもある。
その他、一般的にいって政府は正しい決断をしているとの設問について、そうであると答える若者もやはりこの間で増えている
ベーシックインカムの是非については、賛成・反対が半々というところ。教育水準の高い人たちには賛成が少なく(132336%)、低い人たちには賛成が多い(312455%)。これは偶然ではないと考えられる。性別ではあまり差がない。年齢があがるほど賛成は少なくなっている。ベーシックインカムは、緑の政党の政策では11ヶ月700ユーロ程度と提案されている。

青年バロメトリが青年政策の実行にどう関係しているかについて、新しい法律に基づいて青年に関する政策を実施するにあたっては青年の意見を聞かなければならないとされている。そこでこの調査では、若者は自治体の青年政策に影響を及ぼせるか、という設問をしており、いま3人に2人は影響を及ぼせると答えている。
投票年齢(今は18歳)を引き下げるかどうかについて、各選挙について尋ねたところ、どの選挙についても賛成している青年は少ない。一番多いのは自治体選挙で、約3分の1は賛成している。まだ投票権のない年齢の人の回答が興味深いが、1517歳の若者は他の年齢よりは多いがまだ賛成は半数以下に留まっている。
これらの回答結果が、社会階層や、移民か否か、学校での成績の善し悪しなどと関係しているか?については、教育のレベルについては分析に取り入れており、親の収入の差も調査に取り入れているが、移民か否かについてはわからない。フィンランドでは移民が少なく調査対象も無作為抽出であり、また移民はこうした調査に回答しない傾向もあるので。調査結果が実際に社会階層によって違いがでているかどうかは、いま記憶にない。
性別、年齢、国語の違い(5%がスウェーデン語)についてはクロス分析している。


 
*【政策と調査研究との関連】
調査と政策との関連は、初めからある。青年研究ネットワークがこの調査に参加したのは2004年からだが、ヌオラがそれまでは実施していた。1983年に青年研究雑誌が設立され、それを政府関係者が読み、研究者と政策担当者が共同研究をしたり、外国との交流が始まったりした。ネットワークの前に、青年研究2000というのがあった。
1992年からフィンランドは深刻な不況となり、大量の若年失業が出て、その後、若者研究の必要性が認識されるようになり政府からの資金も出るようになった。最近では「平等」大臣(大人と子どもの平等)、「教育」大臣が若者政策と関係している。
2000年以降若年就業の状況は好転したが、


*【Finnish Youth Reasearch Societyについて】
150人の研究者が参加。青年研究は社会学を初めとして、多くの分野で研究されている。協力しているのは教育省で、資金は政府から出ている。societyには研究者を養成する役割もある。ここがネットワークの所長やプロジェクトの研究テーマ、研究者の決定も行う。年4回雑誌を発行、その他にシリーズで本の刊行もしている。オンラインでのフォーラムやブログももち、そこでも対話をしている。すべての青年研究を行っている大学とも関係をもっている。すべての関係大学が参加しているユニットもあり、ネット上の大学も設けている(いま27人の学生を募集)。25単位を与えて基礎的な青年研究の学位を与えられる。Allianssiとの関係も重要。
北欧諸国はEUの中で協力しあっているが、その同盟関係の一環として青年政策をめぐる協力もおこなっている。そのためのコーディネータを各国の研究者が担っている?その一環として北欧以外からも各国からの人を集める国際セミナーも、北欧各国で開催している。国際社会学会のRC34の会長も少し前までHelena Helveさんがやっていた。ヨーロッパ社会学会も含め、このSocietyはできるだけ国際的な研究ネットワークをもとうとしている。
目標は青年研究を自律した学問にすること。いまクオピオ大学で17人の青年研究の修士を出していて博士論文を書いている学生がいる。一人はアルバイトをしている若者の状況について研究をしている。ヨーロッパレベルでも2009年に青年研究の大学院を始める予定だ。今後、青年研究の影響力はもっと強まっていくだろう。日本とも研究的な協力関係ができていけば大変嬉しい。


*【質疑】
Q.若者の影響力を高めようとする政策はどうして出てきたのか?(失業率の改善と何か関係あるのかないのか?)
A.一つはEUの青年白書を実施していくこと。もう一つは青年の投票率の低下が問題化されてきたこと。フィンランドは労働者不足が予想されていて、今後は移民に頼らざるを得ないとも考えられている。高齢化社会になってきてもいるので、若者の就業は期待されている。近年失業は減ってきているが、青年の場合には短期雇用が多いので、安定した就業の不足という点では問題がある。研究者の場合もそうだ。
調査研究の結果は政策に反映されているのかどうか、影響力はあるがそれは直接的なものではない。政治家が調査結果から学んで、そういう背景があることを意識して政策を考えるという関係。研究に基づく政策決定を行う、ということにはなっている。
研究者と政策担当者の間の意見の違いがあるかについて、確かに違いはあるが、彼らが研究に魅力を感じなかったら資金を出さないという関係なので、研究テーマや分析内容については我々はフリーの立場にあるといえる。